高海千歌という人間

 こんにちは、祀才です。

 

 私は千歌推しです。ラブライブ!サンシャイン!!2期まで見終えてより一層千歌という人間が好きになりました。

 この記事は千歌の人物評のつもりですが、ただ千歌が好き、千歌という人間の魅力を知ってほしいという思いだけでできていますので、得るものはないかもしれません。

 得るものはなくとも、千歌を好きになってください。

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 それでは、本題に進みます。 

 

 

輝きを目指した普通怪獣

 千歌は自らを普通怪獣と言って卑下します。

 幼馴染の曜は高飛び込みで才能を開花させている一方、自身はやりたいことが見つからず何をしても長続きしない。特別なモノが見つからない。だから普通怪獣。アニメでくどいほど表現されたフレーズです。

 

 そんな千歌は訪れたアキバで偶然、μ’sと、スクールアイドルと出会い、物語が始まりました。なぜスクールアイドルだったのか。それはμ'sが9人だったからでしょう。

 

 千歌にとっての最初の輝きは高飛び込みをする曜でした。高飛び込みは個人競技ですので、幼い千歌の心には個人で活躍することが輝きだと刷り込まれました。

 だからスクールアイドルに出会う前の千歌は、自分一人で特別なモノを探そうとした。その挑戦は、次に述べる千歌の性格のために成果を出せませんでした。

 しかし、スクールアイドルは一人じゃない。みんなとなら自分も輝ける。

 千歌はスクールアイドルと出会うことで、輝きの新たな形を見つけたのです。

 

憧れの存在

 物語の終盤、閉校祭の前日に、千歌の最初の憧れの存在である曜は、千歌にずっと憧れていたと伝えます。ようちか安心委員会大歓喜のシーンでした。私も泣きました。曜ちゃんよくやった。

 でも、同時に疑問を抱かれたと思います。“ずっと”憧れていた。つまり、スクールアイドルを始める前から憧れていたのです。千歌は飽きっぽい性格で、特別なものは持っていないはず。いったい何に憧れていたの?

 

 そのヒントは2期13話で千歌の母のセリフ「うまくいかない事があると、人の目を気にして本当は悔しいのにごまかして、諦めたふりをしてた」にあります。

 普通人の目を気にするならば諦めるという選択はおかしいです。だって、諦めたやつと思われるのって恥ずかしいじゃないですか。だから情熱が無くなっても惰性で続けるほうが自然ではないでしょうか。でも千歌は違う。

 千歌は負けず嫌いで中途半端な自分が許せない性格です。惰性で物事を続けることはしません。少しうまくいかないくらいでは情熱が無くなったりはしません。

 それなのに、千歌は人の目を気にして、諦めたふりをしました。なぜでしょう?

 

 2期6話で見せたアクロバットの練習の時のように、千歌の挑戦は不格好で痛々しい。そんな痛々しい姿を見せつけられた周りの人間は心配します。小さな子供ならなおさらです。千歌は中途半端な自分が許せない。それ以上にみんなを悲しませること、心配させることが嫌なのです。だから、「諦めたふり」をする。みんなを心配させるより、飽きっぽい千歌ちゃんを演じて笑われたほうがいい。

 それは少しゆがんではいるけれど、千歌のみんなを気遣う優しさ、笑われることを恐れない勇気。それは意志の強さ。千歌の母も、幼馴染の曜も気がついていました。

 

 そんな千歌に、曜は憧れたのです。

 

“半端”を受け入れる優しさ

 千歌は中途半端が嫌いです。しかし他人に対して中途半端を責めることはしません。

 例えば梨子。再びピアノに向き合えるまでスクールアイドルをする。そんな“半端”な態度は真剣な千歌に失礼だと、梨子はスクールアイドルへの思いを拒絶しようとしました。しかし千歌はそんな梨子を受け入れます。スクールアイドルは誰かを笑顔にする存在だから、梨子が笑顔になれるなら嬉しい、と。

 他のメンバーについてもそう。体験入部という“半端”な形で始まったルビィと花丸を、“半端”な堕天使キャラの善子を、一度始めたスクールアイドルを“半端”に終えてしまった旧Aqoursの3人を受け入れます。

 その“半端”を受け入れた先で、みんなが笑顔になれるなら。

  千歌は自分よりみんなのことを大切にする、そんな人間なのです。

 

千歌の覚醒

 そんな千歌は他の人の輝きには気づくことができますが、自分自身の力に、輝きに気づくことはできません。普通怪獣だから。それは千歌の優しさが、勇気が自分自身にかけてしまった悲しい呪い。自分でかけた呪いは自分でないと解けません。

 しかし千歌はそれを呪いと気づいていないのです。まずは呪いと気づくためのきっかけが必要となります。

 

 それがMIRACLE WAVEのアクロバット

 これは旧Aqoursが、果南が果たせなかったことです。みんなを大切にする千歌にとっては絶対に成功させなきゃいけないこと。なのに、できない。

“なんでできないんだろう。なにが足りないんだろう。”

 千歌は自身に問いかけます。

“普通怪獣だから”

 呪いがまた疼き始める。

 それを救ったのは普通怪獣りこっぴーとヨーソローでした。

「まだ自分が普通だと思ってる?」

投げかけられた前提への疑問。

「みんなワクワクしてるんだよ。千歌ちゃんと一緒に私達だけの輝きを見つけられるのを。」

 他のメンバーも集まって、かつて自分がみんなにしたように、“半端”な自分を肯定し、その輝きを信じてくれている。

 普通怪獣にも輝きはあるのかな。

 

 Aqoursのメンバーが、千歌が受け入れた“半端”だった輝き達が、千歌を見守り並びます。私にはその光景が滑走路に見えました。

 小さな船だと思っていたけれど実は翼を持った水上機だった。それに気づけば後は翼を広げるだけで空をとべる。

「みんな信じてくれてありがとう。」

 “半端”な自分を受け入れて、遂に千歌は覚醒しました。

 地区予選を突破できたのは、あまりに必然のことでした。

 

間違いの挫折と間違いの救済

 覚醒し決勝に駒を進めたAqoursでしたが、そこに統廃合決定という非情な現実が突きつけられました。再び味わう大いなる挫折。

  しかしそれは本当に千歌達の挫折なのでしょうか。廃校決定で砕かれたのは“輝きとは廃校を覆す奇跡を起こす力”というμ'sの“伝説”に基づく間違った認識です。

 それは間違えた千歌の迷妄を掃う一喝だったのではないでしょうか。 

 

 千歌は間違えていた。それが明確に示されたセリフがあります。

「奇跡を起こして、学校を救って、だから輝けたんだ。輝きを見つけられたんだ。」

 千歌は意識していないかもしれませんが、この後に続く言葉は間違いなく「μ'sは。」です。Aqoursではありません。自分達だけの輝きを見つけると宣言したのに、μ'sのことを語っています。明らかに間違ったことを言っています。

 

 しかもその言葉はμ'sの輝きの本質からではなく、μ'sの“伝説”から導かれたものです。ですので、この言葉には輝きの本質は一片も存在していません。

 千歌はこの土壇場で、輝きとは?という問いに0点の解答をしてしまいました。

 悪いのは千歌だけではありません。他のメンバーも“伝説”に囚われていました。そして間違った目標設定だったにも関わらず、それまでに輝きを求めた試みでAqoursは確かに輝いていました。だから目標が間違いだと気づけませんでした。

 条件はみんな同じ。しかし0点をとったのは千歌だけでした。

 千歌は一人で自分の心に向かうとき、みんなを思って自分の心に嘘をつきます。

 廃校を阻止できなかったのにラブライブで優勝してもみんなが喜ぶわけがない。そんな未来に怯えて自分の心に嘘をつく。だから、間違える。

 

 そんな千歌を救うのは、浦の星のみんなでした。

 ラブライブで優勝して浦の星の名前をラブライブの歴史に刻んで。

 託された願い。新たな目標を得て三度千歌は奮い立ちました。

 

 しかし千歌はそれがみんなの本当の願いではないことに気づいていません。

 みんなの本当の願いは、Aqoursが輝く姿を見ること、Aqoursと一緒に輝くこと。

 本当は優勝しなくたって構わない。廃校が告げられた後の教室で千歌に伝えた、頑張って、応援してるよ。その言葉こそ真実だったのです。

 でも千歌には伝わっていなかった。だったら嘘をつこう。100%の願いが伝わらないなら嘘が混じった“半端”な願いを伝えよう。それで千歌が笑顔になれるなら。

 優しい千歌に向けられた優しいみんなの優しい嘘。

 こうして千歌はまた間違えます。間違いによって救われます。

 

 この世の中は、間違わないことが間違いとなってしまうことさえあります。一度も間違わずに生きていくことができる人間などいるのでしょうか。もちろん私も間違いだらけの人生を送ってきました。

 千歌は、何度も間違え、時に間違いに救われます。当に人間の姿です。

 私にはそんな千歌がとても愛おしく感じるのです。

 

今度こそ間違えないために

 ラブライブ決勝を控えて訪れた神田明神で、千歌は浦の星のみんなが奉納した絵馬と、それに並んでいる他のスクールアイドルの絵馬を見つけます。それは他のスクールアイドルの願い、自分たちと同じように輝きを求めていることを思い知ります。

 優勝することは即ち他のスクールアイドルに勝つことです。千歌はその事実を、かつて自身が否定した言葉とともに聖良から突き付けられました。

「勝ちたいですか?」

 

 千歌は自分よりみんなのことを大切にする人間です。

 自分たちと同じように輝きを求めているスクールアイドルの思いを知った千歌にとっては、他のスクールアイドルもみんなの範疇に含まれてしまいます。

 だからといって目標が変わることはありません。幸いにも千歌は函館でSaint Snowの敗北と再生を体験しました。かつて0に打ちひしがれた自分たちと同じように、他のスクールアイドルの輝きも敗北しても潰えることはない。それを知っているから安心して勝つことができる。

 しかしその決意により未来に怯える千歌は新たな不安がよぎります。みんなの内の誰かの願いが叶ったとき、他のみんなの願いが叶わないことがあるという事実。浦の星のみんなの願いが叶っても、Aqoursのメンバーの願いが叶わない可能性がある。

 だからメンバーの一人一人に千歌は問いかけます。千歌一人であれば間違えるかもしれないから、ちゃんと一人一人に問いかける。今度は間違えないために。ちゃんと前に進むために。

  

 自分に嘘をつき、間違いを繰り返し、周りの人に助けられながらも足掻き続けた千歌は間違えないための方法を、次に進むための方法を掴み始めています。

 

なくなったからこそ気づくもの

 ラブライブで優勝し、みんなの願いを叶えたAqours

 しかしそれは間違った願いに基づく間違った目標を達成しただけです。千歌はまだ輝きの答えは見つけられていません。見つけられない間に浦の星女学院の閉校式も終え、全てが終わってしまいました。 

 終わってしまったことで、悲しい気持ちをごまかすために千歌はまた自分の心に嘘をつき、浦の星での思い出を忘れたふりをします。確信は持てないけどみんなが輝いていたあのステージに答えがあったはず。

 

 そんな迷いを晴らそうと飛ばした紙飛行機に導かれ、千歌は浦の星女学院にたどり着きました。閉めたはずの門が開いていることに気づく。何かを期待して校舎を歩く千歌。でもやっぱりそこには何もない。何もないはずなのに聴こえてくる輝きの残響。何もないからこそ明確に理解できる発生源。

 千歌は自分よりみんなのことを大切にする。全てが終わり、なくなるまではみんなの方に意識を向けてしまう。それらがなくなって初めて本当の自分に向き合えるのです。

 本当の自分に向き合えれば気づけます。未来に怯えながら間違えながら進んできた軌跡、それは千歌の中に確かに“ある”ことに、それが輝きであることに。

 

 輝きの正体に気づいたときにあの時と同じ微かな気配を感じる。その先には浦の星のみんながいました。彼女達の輝き、彼女達が見ていた輝き。それを知ることで千歌の気づきは確信に変わります。

 千歌は間違えない方法を学んだ、本当の自分との向き合い方も分かった。それでも一人では間違えるかもしれない。千歌は特別な力を持たない普通の人間。だから最後の確信は他者によって、浦の星のみんなによって与えられるのです。

 

二人のリーダー

 千歌は自分の心に嘘をつきます。逆にμ’sのリーダーである穂乃果は自分の心だけには嘘をつきません。だからこそ劇場版で正しい答えにたどり着けました。だからこそ穂乃果は英雄足りえたのです。

 しかし英雄は物語の先へはいけない宿命を背負っています。役割を終えた英雄は英雄であり続けることはできません。だから英雄たるμ’sは瞬間をリングに閉じ込めて、今を永遠にするのです。

 一方で千歌は英雄足りえないどこまでも小さな人間、私たちと同じ人間です。人間は奇跡を起こすことはできません。しかし代わりに、敗北を、間違いを、嘘を繰り返しながら、何度だって新たな夢を追いかけることできる。

 そんな人間の物語だからこそ、千歌の軌跡は私たちの心に響くのです。

 

 おわりに

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 つたない文章ではありましたが、少しでも高海千歌という人間の魅力が、人間賛歌としてのラブライブ!サンシャイン!!の面白さが伝わっていれば幸いです。

 

 他キャラの人物評もそのうち記事にするつもりです。そのうち。