ラブライブ!サンシャイン!! Aqours ONLINE LoveLive! ~LOST WORLD~

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 2020年10月10日、11日に開催された、ラブライブ!サンシャイン!! Aqours ONLINE LoveLive! ~LOST WORLD~の感想、というかセットリストについて思ったことを書きます。

 

 

LOST WORLDというタイトルについて

 新型コロナウイルスの感染拡大により、3月のAZALEA First LOVELIVE! ~ Amazing Travel DNA ~、5月のPERFECT WORLD、9月から開催予定だった6th LoveLive! DOME TOUR 2020が中止となり、代わりに開催が発表されたオンラインライブのタイトルがLOST WORLD。

 浦ラジでキャストも言及していたように、正直、PERFECT WORLDが中止になったからLOST WORLDって、皮肉にしてもどうなのよ、と思いました。

 そんな思いの中、9月12日、13日に虹ヶ咲の2ndライブがオンラインで行われました。キャスト陣もオンラインならではの緊張が見て取れましたが、AR演出も多用されたいいライブだったので、LOST WORLDへの期待も高まりました。

 

セットリスト

 そして始まったLOST WORLD。セトリは次の通りでした。

 01. New Romantic Sailors/Guilty Kiss

 02. Braveheart Coaster/CYaRon!

 03. Amazing Travel DNA/AZALEA

 04. 空中恋愛論/AZALEA

 05. メイズセカイ/AZALEA

 06. シャゼリア☆キッス☆ダダンダーン/シャゼリア☆キッス

  [過去ライブのダイジェスト]

  [6thオープニングテーマ]

  [オープニングムービ―]

 07. Fantastic Departure!/Aqours

 08. Deep Resonance/Aqours

 09. Aqours Pirates Desire/Aqours

 10. Wake up,Challenger!!(Day1)/Dance with Minotaurus(Day2)/Aqours

 11. 君のこころは輝いてるかい?Aqours

  [アンコール]

 EN1.JIMO-AI Dash!/Aqours

 EN2.青空Jumping Heart(Day1)/未来の僕らは知ってるよ(Day2)/Aqours

 

 セトリだけ見ると、初披露曲多いなとか、ユニット曲と混成は2nd以来だなとか、6thオープニングテーマなんで先にやるの?といった感想が浮かぶと思います。

 

オタクの心を抉りに来るLOST WORLD

 01. New Romantic Sailors ~ 05. メイズセカイ

  開幕に3連続でユニット曲が続き、きっとPERFECT WORLDもこういう風になってたんだろうなーと思いながら観てました。続けて、空中恋愛論やメイズセカイが披露されたのもうれしかったですね。

  06.シャゼリア☆キッス☆ダダンダーン

 これもPERFECT WORLDで観れたらいいなと思ってたのでよかったです。小宮さんガチで強そうでしたね。

 エイプリルフールのネタ曲でしたけど、今の世界情勢とリンクして、LOST WORLDというテーマにあってましたね。

 ここまでは、PERFECT WORLDでやろうとしてたことでしょう。ステージセットもユニットライブで使われていたものでした。PERFECT WORLDの残滓パートといったところでしょうか。

 

 [過去ライブのダイジェスト]

 [6thオープニングテーマ]

 過去の思い出とあったはずの未来の幻視ですよ。走馬灯ですか?死ぬんですか?

 

 [オープニングムービ―] 

 メンバー紹介に続いて、中止となった3つのライブが“LOST”し、その空隙に残された光にAqoursが集結するオープニングムービ―。どこまでオタクの心を抉ってくるんだよ。

 

LOST WORLDに込められたテーマ

 この演出にLOST WORLDというタイトルは皮肉でも何でもない、Aqoursの”本気”を感じました。

 テレビアニメと劇場版で示されたAqoursの輝きとは、「足搔いて足搔いて足搔きまくったそのキセキ、それはずっと消えないもの」でした。

 Aqoursの輝きは、その軌跡全てであり、おまけにずっと消えないので、都合のいいことだけをピックアップはできません。

 Aqoursは悪いことであったとしても、「なかったこと」にはしないのです。

 

 どこまで真摯なんだよって思いませんか?正直そんなことしなくてもいいじゃないですか。Aqoursのパフォーマンスはもう折り紙付きですので、”いいライブ”をしようと思ったらいくらでもやりようがありますよ。人気曲や未披露曲を並べるだけでも十分です。(結果的に今回のセトリは未披露曲がほとんどでしたが。)

 5thのMCで小林愛香さんは”Aqoursだからできること”を見せていきたいと言いました。”いいライブ”ならAqoursじゃなくてもできるんですよ。でも”Aqoursラブライブ!サンシャイン!!)のテーマに向き合ったライブ”はAqoursじゃないとできない。だから、Aqoursは「なかったこと」にしないのです。

 

 3つのライブが中止となったのは、コロナ禍の「今」そのものです。コロナ禍の「今」を「なかったこと」にしないのであれば、「今できることで希望を示すこと」がAqoursがするべきこと、今のAqoursの物語ということになります。

 一周回ってμ’sのテーマみたいになりました。違いを挙げるなら「今が最高」ではなく「今を最高にする」ということでしょうか。

 

「今」に抗う Aqours

 07.Fantastic Departure!

 ドームツアーのテーマ曲として作られた曲です。しかし、2番の歌詞はLOST WORLDのテーマ曲として十分成立しているように感じました。 

時代は波よりも速い 寄せては返さない
ただ前に流れる ああ前に
からしっかり進んでこう
ファンタスティックな出発は
飛沫をあげながら そう前に

いまだってここからだよね(ここから)
僕らは旅をはじめて(遠くへ)
またなにか見つけるんだ(見つけよう)
夢を声に出してみよう

その歌はきっと伝わるよ
ココロは時空を超えちゃうんだ
人生のキセキを信じるなら もっと楽しめるね

だいじなミライ すごいミライを持ってるんだ(いつもいつも!)
笑うんだ 笑顔になれば
そんな時 イルカが飛んで 僕らも飛んで
クジラに乗ってしまうんだ(そうだそうだ!)
衝撃の冒険 ありえないこともオールオッケー
それが僕らさ!

 いかがでしょうか。なんとなくコロナ禍の中でも前に進もうとするAqoursの歌に聞こえませんか?特に、「その歌はきっと伝わるよ ココロは時空を超えちゃうんだ」の部分はオンラインライブのことを歌っているようじゃないですか?

 

 08.Deep Resonance

 シャドウバースとのコラボ曲で、荒廃した世界に対して抗うダークな世界観の曲です。元のコンセプトからLOST WORLDの世界観とマッチしています。特にこの歌詞はオンラインライブに希望を見出しているイメージに繋がります。

痛みが 嘆きが 君の夢を貪る
誰にも届かない声が闇を 駆け抜けてく
認めないよそんな悲しい
世界なんて見ていられない
君とのレゾナンス… 感じてる

壊れそうなこんな世界で 出会ったのは偶然じゃない
君とのレゾナンス...感じてる

 

 09.Aqours Pirates Desire

 Desireという単語は強い欲求を意味します。欲求が強くなるには、欲求を達成することが困難であることが必要となります。順風満帆な状態では欲求は強くなりえない。

 つまり、この曲も逆境下でも”ココロは止まらない”ことがメッセージです。

 

 10. Wake up,Challenger!!(Day1)

 読んで文字のとおり、挑戦者、逆境に立ち向かう者の歌です。

 Aqoursがこれから成そうとしていることを踏まえれば、今もAqoursは挑戦者ですが、この曲が発表された当時、率直に言えば、虹ヶ咲という後輩ができ、確固たる地位を得たAqoursは挑戦者のイメージに合わないと感じていました。

 しかしこのコロナ禍、LOST WORLDにおいては、Aqoursは間違いなく挑戦者でした。Aqoursが「今」歌う歌としてこの上なくハマっていました。

 

 11. 君のこころは輝いてるかい?

 Aqours全員に囲まれた状態から始まるというオンラインライブならではの演出がなされました。それ自体もうれしいものでしたが、白眉なのはその次のシーンです。

 円陣からフォーメーションに付き、観客のいない空間に向かい照明に照らされた後姿。

 暗闇の中でなお抗って、希望の光に向かって行くというLOST WORLDの構図そのものです。特撮やバトルアニメのクライマックスの構図です。心の中の優木せつ菜が「最高です!!!!!!!!!」って騒ぎ出すやつです。

 それを踏まえて歌詞を聴きましょう。生きて帰れたら教えてください。

 

 オープニングムービ―以降の本編部分は、全てコロナ禍で抗うAqoursが表現されています。その表現はライブの進行にあわせて、「そうともとれる」から「そのような構図を作っている」という変化をします。これは、ライブが進むにつれて逆境の程度、抗いの激しさ、そして希望の総量が多くなる構成になっているのです。

 

 

Aqoursが「未来を変えた」

 10.Dance with Minotaurus(Day2)

 Day2では、Wake up,Challenger!!がDance with Minotaurusに変わっていました。

 本当に鳥肌が立ちました。初日のセットリストがメッセージとして完成されていたので、変える余地などないと思っていました。しかし、変わった。

 これは世界を守るために抗っていたAqoursが世界を救う「未来に変えた」という演出です。ユニットライブの幕間アニメでも使われた、初日と2日目で結末だけを変え、2日目がTrue Endになるという手法です。

やあそこだね!
間にあったようだ 出口へと連れて行くよ
何があっても ちゃんと連れてくからね
(Fight oh! Fight oh! I'll save you, Hi!)

  2日目は間に合って出口へと導かれてるんですよ、僕らは。

 初日に「今みらい変えてみたくなったよ!」って歌ってたでしょ。それに受けて、胸に手をあて”Yes!”と笑ったでしょ?その瞬間に変わったんですよ未来は。

 でもまだ未来は変わりはじめたばかりです。未来を確定させるには何が必要か、この曲が”10”曲目であることを踏まえれば、きっと伝わっていると思います。

 

LOST WORLDはAqoursの外伝劇場版アニメ

 さて、2日目に僕らはAqoursに救われたということは、それまでは危機に瀕していたということです。危機に瀕したときに見る過去の映像とは。

 もうお分かりと思いますが、過去ライブのダイジェストは、比喩でも何でもなく、走馬灯として配置されています。そして、過去には存在していない6thのオープニングテーマは、走馬灯の中に紛れる違和感、未来の幻視です。これは、「未来が変わる予兆」を表現しています。 

 PERFECT WORLDの残滓パートから6thオープニングテーマまでは、危機に見舞われ、走馬灯と未来が変わる予兆を見るというアバンパートの構造になっています。よくアニメであるやつです。オープニングムービ―が中盤にあるのもそのためです。

 

 μ’s徳井青空さんは、スクールアイドルが戦う格闘ゲームがやりたいとよく話していました。また、Aqoursのメンバーをバトルアニメ風にした二次創作も存在しています。

 LOST WORLDは、その世界観を公式がやっちゃったやつです。外伝です。その外伝にふさわしい名前が既にあります。そう、シャゼリア☆キッスです。Aqoursがシャゼリア☆キッスに変身して戦う物語。Aqoursとシャゼリア☆キッスが別人という設定も、変身ヒーローの正体はたとえバレバレでも明かさないという「お約束」です。

 

 Aqoursのテーマに向き合って、今できることをしたら、エイプリルフールネタだったはずのシャゼリア☆キッスの物語ができてしまいました。嘘から出た真。

 

 偶然を運命にする、世界を変える仕掛け

 このシャゼリア☆キッスの物語を描くために使われた楽曲は、シャゼリア☆キッスの物語を描くために作られた楽曲ではありません。シャゼリア☆キッス☆ダダンダーンでさえ、本来はエイプリルフールネタですので、意図していない利用だったでしょう。

 偶然にもかかわらず、まるで運命であるかのようにシャゼリア☆キッスの物語を成立させました。 これは、テレビアニメ2期5話で描かれたように、偶然そうなったことでも、運命であると見方を変えて肯定的に捉えなおす思想の実践に他なりません。

 

 今回のライブでは、他にも偶然を運命に読み替える仕掛けがありました。

 2日目に伊波杏樹さんが発した1stオンラインラブライブというワードです。

 本来は苦肉の策であったはずのオンラインライブを“1st”オンラインラブライブと読み替えることで、Aqoursにとって重要な文脈である“ゼロからイチへ”を本歌取りした“新しいゼロからイチ”を創造することができました。

 見方が変われば世界が変わる。世界が変われば未来が変わる。

 これらの仕掛けが「Aqoursが未来を変える物語」に説得力を持たせます。

 

 

 アンコールにも仕掛けがあります。

 EN1.JIMO-AI Dash
 一つの戦いを終えてホームに帰ってきて羽を伸ばしているイメージです。

 いくらバカンスといっても、はっちゃけすぎな気はしますが。


 EN2.青空Jumping Heart(Day1)

 戦いは終わったものの、初日の時点ではまだ世界は変わっていません。

 しかし、未来を変えたいと思っていて、明日も戦い続ける。2日目に世界を変える伏線になっています。

変えたいな!My Future  (さあどこへ) 太陽が昇るように
夢よ輝いて Charging Heart

変えたいと思う  (sunshine mission) 気持ちがきっとだいじだよ
夢をつかまえに行くよ
みんなとなら 説明はできないけどだいじょうぶさ!

 

 EN2.未来の僕らは知ってるよ(Day2)

 ただでさえ、逆境の中で希望を歌っている歌です。合わないはずがありません。フレーズのひとつひとつから世界を変えたAqoursの戦いが浮かびます。拗らせればエンドロールの映像まで見えます。いや本当に。

 そして、みんな叫んだはずです。

I live, I live Lovelive! days!

 これがコロナ禍の苦しい今をLovelive daysに読み替える最後の大仕掛けです。
 この瞬間に確かに変わったでしょ、世界。

 

 そして、この歌はこう始まっています。

ホンキをぶつけあって
手に入れよう未来を!

 本気をぶつけあうことは一人ではできません。変わった世界で未来を手に入れるためには、こちらからも本気をぶつけ返す必要があります。
 Aqoursの本気は十分伝わったと思います。あとは“10人目”次第です。

 

LOST WORLDが示した答え

 劇場版でアニメのAqoursの物語は一区切りを迎えました。しかし、μ’sとは違い、Aqoursは活動を続けています。アニメの物語を背負わない活動とは何か。アニメキャラ名義の歌を歌う存在?それはただの声優アイドルグループと何が違うの?これは本来6thで問われるはずの問題でした。

 6thで示そうとしたものとは違うかもしれませんが、LOST WORLDはひとつの答えを提示しました。

 Aqours新たな物語がなくても、物語のコアに向き合っていればAqoursの物語として成立する、ということです。

 この先もAqoursは物語のコアと向き合い続け、Aqoursだからできること、Aqoursの物語を紡ぎ続けてくれるでしょう。それが、ただの声優アイドルとは一線を画したAqoursという存在なのです。